福島のタブーに挑む・その2 被ばくデマ・風評被害の根絶 澤昭裕・2016年への提言(中篇)

先のブログでも述べたが、国の面子を優先した対策ではなく、福島
(だけもなく、日本に住む国民のため、同じ地球に住む世界中の人々)
の現在・そして未来のための活動を行うべきだ。

[WEDGE Infinity 2015年12月27日(日)澤昭裕]

東京電力福島第一原子力発電所の事故から5年が経とうとしている。
パニックが収まっていない中で次々と決定されたこれまでの政策措置は、
当面5年程度を念頭に置いていたという。
5年経てば、事故の収束や放射能汚染、避難状況等について、事態を冷静
に分析できる状況になっているだろうから、その時点で再検討を加えると
考えていたわけだ。
2016年は、17年3月の避難指示解除以降の政策のあり方について、抜本的
な検討を行う極めて重要なタイミングである。
事故直後の政治的判断がつくり出したタブーや囚われた固定観念を、
意図的に表に晒して議論することが必要だ。

前篇「除染のやり過ぎを改める」についてはこちら
 http://40oldwoker.at.webry.info/201512/article_22.html

放射線リスクの情報発信

種々の主体が行っている放射線に関するモニタリングの結果、データは
相当厚く整備されており、福島の地元ではデータをどう理解すればよい
のかについての知識も広がっている。

特に子どもの健康を守るためには、放射線そのもののみならず、放射線
に対する不安に起因する健康への悪影響をどう防ぐかという視点も重要
だ。長期的に対応しなくてはならないことを考えれば、正しい情報の提供
を行い、「正しく恐れる」知識や知恵を住民に身につけてもらうことが
肝要である。

また、未来のある子ども達の心のケアに最大の努力を注力すべきだ。
チェルノブイリの経験からの最大の教訓はここにある。
政府はこうした教訓も踏まえて、放射線の健康リスクに関する国際的な
見解を提示しており、これを踏まえた住民一人ひとりの柔軟な対応を
可能とするべく、住民への線量計の配付・計測や、相談員の巡回等に
よるきめ細かな対応を行っている。

むしろ問題は、現地よりも福島県外の人々の放射線リスクに関する知識
や情報レベルにある。
いまだに福島県は「住める場所ではない」とか「逃げるべきだ」などと
煽りを繰り返している「市民運動団体」が存在している。
福島を救うような顔をしながら、実際には復興を妨げ、地元住民の心の
傷に塩を塗りこむような活動を行っている勢力に屈することがあっては
ならない。これは原子力推進か反対かとは別次元であり、人間としての
品格(integrity)の問題として捉えられなければならない。

画像

福島・浜通り地区で開催された国道6号の清掃ボランティア活動に対し、
「高線量で危険」と東京から駆けつけた活動家たち(Wedge)

つい最近も、福島の国道6号線で行なわれた清掃ボランティア活動の
イベントで、そうした団体が主催者に対し激しい抗議活動を行い、あろう
ことかそれを好意的に報じるメディアがあったことをWedge12月号が報じ
ている。福島出身の社会学者、開沼博氏は、この問題を取り上げて、次の
ように書いている(2015年11月2日福島民友への寄稿)。

「無理解と『福島=絶対危険という価値観以外認めない』というイデオ
 ロギーが背景に存在する。(中略)先鋭化する市民運動がなす誹謗中傷
 が直接的に、あるいはインターネットを介して被災者に向けられるのは
 今回にとどまらない。
 農家など食べ物に関わる生業につく住民に『毒を作るな、売るな』と、
 避難から帰還した母親や県内の教育関係者に『子どもを傷つけるのか』
 『洗脳されている』といった言葉が向かう」

こうした勢力が跋扈し続けている問題の背景は、一般国民の放射線リスク
や福島の現状についての情報や知識が十分ではないことにある。例えば、
福島県の米は、15年産の玄米の全量全袋検査で、国が設定した世界各国で
最も厳しい規制値(100ベクレル/kg)を超えるものは、一つも見つかっ
ていないことをご存じだろうか(15年12月26日現在)。

画像

全量全袋検査の流れ(福島県ウェブサイト)※拡大画像表示

原発事故後5年を迎えようとする現在、一般国民の放射線リスクや福島の
現状に対する関心は薄れつつある。
事故直後にネットやメディアで垂れ流された有象無象の情報が、その後
事態が落ち着き始めた中でようやくふるいにかけられ、正確な知識や
データが体系立って編集され始めたのだが、そのころにはすでに一般的な
関心を引かなくなってきた。
その結果、特に福島県から物理的に遠い西日本などの地域では、情報や
知識のアップデートがなされておらず、一般国民の頭の中は11年3月下旬
以降イメージが固定化されたままになっているのである。

こうした構造が福島県の産品に対する風評被害を固定化してしまう要因
にもなっている。福島の復興に向けての日本全体の支援とモラルサポート
を健全な形で育てていくためには、国民一人ひとりが、今こそ正しい知識
と情報とデータを学びとっていくことが求められている。

しかし、個々人にそうした努力を求めることは難しいのが現実だ。
すでに、国や福島県が主導して放射線リスクや福島の現状についての情報
やデータは総合的に整備されつつある。さまざまな機関のホームページを
見れば、まとまった情報が入手可能だ。
むしろ、こうした情報をどのように個々人に届くようにするかが一大課題
なのだ。

チェルノブイリでは放射線リスクについて、国連や大学が主体となって
各地域にコミュニケーション拠点を置き、その地域の子ども達に正確な
情報を提供する事業を熱心に行った。子ども達が自分たち自身で、無駄な
被ばくを避けつつ、一方むやみに恐れることで逆に健康を害するという
ことがないようにするにはどのように行動すればよいかを学び、さらに
その子ども達が親にも学びの結果を伝えることで親も耳を傾けるように
なったという。

リスク・コミュニケーション事業を国が主導せよ

国や福島県では、地元に対するリスク・コミュニケーション策は相当
行っているし、民間の医療保健機関やアカデミアなども情報提供・相談
に応じている。
むしろこれからは、国が主導して、全国に向けてこうしたリスク・
コミュニケーション事業をより強力に行っていく必要がある。
画像

福島県楢葉町の木戸川で原発事故後初めて再開された本格的なサケ漁
(2015年10月)

放射線リスク・コミュニケーションに関わるポータルサイトの運営、
世界中の知識・データの収集、情報提供主体の育成などを総合的に行う
準公的機関を設立して、国民一般に対しての情報発信の中核拠点とし、
福島の現状に関して世界に向けて常にアップデートしていく役割を担わ
せることを検討してはどうだろうか。

2020年の東京オリンピックに向けて、日本の現状についての情報に対する
ニーズも強くなることは間違いなく、そうした世界からの要望に応える
機能も果たすことができる。国内の福島県以外の地域の人々や海外に発信
することは、福島県の産品や事業者に対する風評被害を根絶するために
最も重要な政策であり、国はこれまで以上にエネルギーと人員を割くべき
である。

<以下、後篇につづく(12月28日公開)>

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POINT福島復興加速の6カ条

1.除染目標の基準を年間5mSvに戻し、個人線量で除染効果を評価
2.8000ベクレル/kg以下の除染土壌は中間貯蔵施設に持ち込まない
3.福島の現状や放射線リスクについて国が主導して全国に情報発信
4.損害賠償に区切りをつけ、コミュニティや生業の再生支援を強化
5.全住民帰還の旗を降ろし、市町村合併を含む広域的な復興計画に
6.復興予算に上限を設け、福島第二再稼働などタブー排した議論を
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